棚卸資産の処理に対する会計と税務の違い!(中小企業の決算書は経営判断に利用できない!その17)

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今回は、「費用性資産の処理(その2)」について考えてみたいと思います。

棚卸資産を原価配分する場合……

中小企業の経営者であるあなたは、商品などの棚卸資産について、会計において費用処理をしていれば、税務でも当然に損金として処理できると思っていないでしょうか?

処理できると思っていませんか?

確かに、固定資産などの他の費用性資産と違って、棚卸資産を原価配分する場合には、どの部分が売上獲得に貢献したのかを物理的に確かめられることが多いため、課税される企業の裁量によって利益操作できる余地が少なく、会計と税務で乖離が生じることは少ないと考えられます。

しかし、税務会計によって作成された決算書を使ってしまうことで……(中小企業の決算書は経営判断に利用できない!その1)でも述べたように、会計と税務では目的が異なるため、棚卸資産の処理に係る判断が必ずしも一致するわけではありません。

例えば、通常の販売目的で保有する棚卸資産の原価配分方法について、個別法*1や先入先出法*2、総平均法*3、移動平均法*4などの複数の方法が認められている点では両者は共通していますが、最終仕入原価法*5については、税務では棚卸資産の評価方法として認められているものの、会計では認められていないという違いがあります。(しかも、税務では最終仕入原価法が法定評価法*6とされています!)

*1実際に払出した棚卸資産の個々の取得原価によって払出単価を算定する方法のこと。

*2先に取得したものから順次払出されると仮定して払出単価を算定する方法のこと。

*3月や年などの一定期間ごとに平均単価を算出して払出単価を算定する方法のこと。

*4仕入れを行う度に在庫数の平均単価を算出して払出単価を算定する方法のこと。

*5期末に最も近い仕入れの取得原価によって期末の棚卸資産の評価を行う方法のこと。

*6選定する評価方法を提出期限内に届出していない場合に適用される評価方法のこと。

棚卸資産の原価配分方法のイメージ

更に、棚卸資産の評価方法には大きく分けて原価法*7と低価法*8の二つがありますが、会計では低価法が強制適用されるのに対し、税務では原価法と低価法の選択適用が認められています。(但し、税務で低価法を選択する場合は提出期限内に届出が必要であり、又、切離し低価法*9は認められておらず、洗替え低価法*10しか選択できません。)

*7期末の棚卸資産の取得原価をそのまま評価額とする方法のこと。

*8期末の棚卸資産の取得原価と時価を比較して低い方の価額で評価を行う方法のこと。

*9翌期首において評価損に相当する金額の戻入処理をしない低価法のこと。

*10翌期首において評価損に相当する金額の戻入処理をする低価法のこと。

このような違いが生じるのは、会計基準は実質的に上場企業などにしか強制されないのに対し、法人税法は人的資源の乏しい零細な中小企業にも適用されるため、たとえ会計理論的には問題があったとしても、税制上は簡便な方法を容認する必要があるからです。

棚卸資産の評価減に係る処理の違い!

一方、低価法による評価損以外の棚卸資産の評価減に係る処理については、会計においては発生要因に関わらず、原則として売上原価として処理されることになっていますが、税務においては「著しく陳腐化した場合」「災害によって著しく損傷した場合」「破損・品質変化などが起きた場合」に限って損金算入することが認められています。

税務では評価減ができる場合を厳しく制限しています!

これは、会計においては物理的な劣化や経済的な劣化による評価減であっても、低価法による評価損と同様に収益性が低下したと考えられる点では変わりがないためですが、税務においては利益操作の手段として利用されることを防がなければならないので、棚卸資産の評価減に係る処理について要件を厳しく設定する必要があるからです。

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