中小企業の決算書は、経営判断に利用できない?その5

その1からその4まで、中小企業の決算書が、経営判断に利用できないことを解説してきました。

その5では、そもそも、なぜ税務会計で決算書を作るのか?その理由について深掘りしていきたいと思います。

 

まず、会計には3種類ありました。財務会計、管理会計、税務会計です。

財務会計とは、株主や債権者(金融機関)が、会社の経営状態を判断するための会計です。

管理会計とは、経営者が、会社の経営状態を判断するための会計です。

税務会計とは、正しく税金の額を算定し、税務申告書を作成するための会計です。

 

しかし、多くの中小企業では、税務会計しか行われていないという実態がありました。

それはなぜか?

三つの会計があるのに、実際に使っているのは一つ。なぜか?

その1では、めんどくさいからという理由をあげました。

 

これは、税務申告書は税務会計で作成し、決算書などの経営判断資料は財務会計や管理会計で作成するのがめんどくさいという意味の他に、財務会計や管理会計は、税務会計にはない難しさがあるという意味があります。

 

その2からその4の解説で、税務会計と財務会計(=管理会計)との差異は、機械の耐用年数の捉え方*の違いにあると説明しましたが、他にも、このような両者の差異の原因となるものには、貸倒引当金の繰入、各種引当金の計上、固定資産の減損など、色々なものがあげられます。

これらに共通するのは、企業に将来生じる可能性が高いことの情報を、会計の中に取込もうとしていることです。

 

よく、『会計は過去の情報しか扱わないので、会計では未来のことを判断するには使えない』といった趣旨の発言を聞くことがありますが、実は、これは税務会計にしか当てはまりません。財務会計や管理会計は、未来の情報を扱います。

 

税務会計は、過去に行った経営活動をもとに税金を計算するためのものなので、基本的に過去情報だけで十分です。

しかし、財務会計や管理会計は、経営状況を判断する情報を作成するためのものです。そうであるならば、可能性が高い、未来に起こること(これを将来事象と言います)の情報を取込まなければ、意味のある情報を作成出来ません。

税務会計は過去情報だけを扱う。財務会計や管理会計は、生じる可能性が高い将来事象の情報も取込む。

それでは、将来生じる可能性が高い事象の情報を取込むことに問題はないのでしょうか?

 

実は、二つ問題が生じてしまいます。

 

一つ目は、人間は神ではないので、将来情報の予測が正しいかどうかは、時が経過しないと判明せず、第三者はそれが正しいかを検証することが出来ないことです。

二つ目は、第三者が正確性を検証できないことを利用して、経営者が自分に有利なように将来情報を予測してしまうことです。

 

例えば、一つ目については、その2からその4までの解説で機械Xや機械Yの経済的耐用年数*を5年としていましたが、実際に5年かどうかは、5年が経過しないと判明しません。

そして、二つ目については、経済的耐用年数*を短くすれば利益が小さくなり、逆に長くすれば利益は大きくなります。

その2からその4で使った設問の設定であれば、経済的耐用年数*を5年より短くすれば、1期間でみた時に損失が大きくなり、逆に5年より長くすれば、1期間でみた時に利益が出ます。

経営者はこれを利用して、実態以上に利益を大きく見せ、金融機関から資金を調達することが可能になるのです。

 

それでは、どうすべきか?について、次回、解説したいと思います。

*固定資産の耐用年数については、監査・保証実務委員会報告第81号「減価償却に関する当面の監査上の取扱い」によって、上場企業でも、法定耐用年数を経済的耐用年数と同じとみなすことが容認されています。しかし、実務上、法的耐用年数と経済的耐用年数が違う会社も存在しますし、IFRSが本格的に導入されると、法定耐用年数を経済的耐用年数と同じとみなすという処理は採りにくくなっていくと予想されます。