その3では、税務会計の決算書では、経営判断が出来ないことを、その2の設例の設定を修正して解説しました。その4も、予告通り、その2の設定を赤字部分のように修正をして、解説を進めたいと思います。
その2で取り扱った設例を、以下のように修正します。
設例
機械Xを使って製品Aを販売するというビジネスがあるとする。
機械Xの購入価額は10,000千円する。×0年の期末に機械Xを購入すれば、×1年から、原材料や人手はかからず、1期間に2,000千円の製品Aの売上があがる。
機械Xの法定耐用年数は10年(国税局が決めた機械の使用年数)、しかし、実際には5年すれば事実上は使えなくなる。(これを経済的耐用年数という)
耐用年数経過後の機械Xには価値がなく、残存価額は0円とする。
5年経過後も機械Xは処分せず、放置しておき、会社も継続するものとする。
(追加の設定)
×6年から機械Yを使って製品Bを販売するというビジネスを行うものとする。
機械Yの購入価格は25,000千円する。×5年の期末に機械Yを購入すれば、×6年から、原材料や人手はかからず、1期間に5,000千円の製品Bの売上があがる。
機械Yの法定耐用年数は10年(国税局が決めた機械の使用年数)、しかし、実際には5年すれば事実上は使えなくなる。(これを経済的耐用年数という)
耐用年数経過後の機械Yには価値がなく、残存価額は0円とする。
×10年の期末に、機械Yを除却処分する。
減価償却方法は、定額法(毎期、同じ金額だけ費用計上する方法)を用いる。
法人税の税率は税務会計の利益の50%とする。他の税金は考慮しない。
尚、上記の設定以外は、全く考慮しない。
これを税務会計で計算すると、次のようになります。
(単位;千円) | ||||||
×0年 | ×1年 | ×2年 | ×3年 | ×4年 | ×5年 | |
売上 | 0 | 2,000 | 2,000 | 2,000 | 2,000 | 2,000 |
減価償却費 | 0 | 1,000 | 1,000 | 1,000 | 1,000 | 1,000 |
税引前利益 | 0 | 1,000 | 1,000 | 1,000 | 1,000 | 1,000 |
税金 | 0 | 500 | 500 | 500 | 500 | 500 |
税引後利益 | 0 | 500 | 500 | 500 | 500 | 500 |
×6年 | ×7年 | ×8年 | ×9年 | ×10年 | 合計 | |
売上 | 5,000 | 5,000 | 5,000 | 5,000 | 5,000 | 35,000 |
減価償却費 | 3,500 | 3,500 | 3,500 | 3,500 | 3,500 | 22,500 |
機械Y除却損 | 0 | 0 | 0 | 0 | 12,500 | 12,500 |
税引前利益 | 1,500 | 1,500 | 1,500 | 1,500 | -11,000 | 0 |
税金 | 750 | 750 | 750 | 750 | 0 | 5,500 |
税引後利益 | 750 | 750 | 750 | 750 | -11,000 | -5,500 |
これを財務会計(=管理会計)で計算すると、次のようになります。
(単位;千円) | ||||||
×0年 | ×1年 | ×2年 | ×3年 | ×4年 | ×5年 | |
売上 | 0 | 2,000 | 2,000 | 2,000 | 2,000 | 2,000 |
減価償却費 | 0 | 2,000 | 2,000 | 2,000 | 2,000 | 2,000 |
税引前利益 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
税金 | 0 | 500 | 500 | 500 | 500 | 500 |
税引後利益 | 0 | -500 | -500 | -500 | -500 | -500 |
×6年 | ×7年 | ×8年 | ×9年 | ×10年 | 合計 | |
売上 | 5,000 | 5,000 | 5,000 | 5,000 | 5,000 | 35,000 |
減価償却費 | 5,000 | 5,000 | 5,000 | 5,000 | 5,000 | 35,000 |
税引前利益 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
税金 | 750 | 750 | 750 | 750 | 0 | 5,500 |
税引後利益 | -750 | -750 | -750 | -750 | 0 | -5,500 |
注目して欲しいのは、各期の税引後利益です。
(今回も、欠損金の繰戻しによる還付の請求については無視します)
税務会計の場合、機械Yを除却するまでは利益が計上されています。しかも、設備投資を増大させ、機械Yを使って製品Bを販売するというビジネスに移行すると、利益も増大しています。
しかし、逆に財務会計(=管理会計)の場合には、機械Yを除却した期以外は、常に損失が生じ、設備投資を増大させ、機械Yを使って製品Bを販売するというビジネスに移行すると、損失も増大しています。
前回までの説明で何度も申したように、正しい会社の経営状態を示しているのは、税務会計ではなく、財務会計や管理会計なのです。
ここで、昔から経営をされている経営者の皆様、今回の設例を見返しながら、過去を振り返ってみて下さい。
高度経済成長期からバブル景気の頃まで、日本経済は常に右肩上がりで、どんどん設備投資をし、拡大路線をひた走り、売上を増大させてきました。すると、自分が思った以上に利益が増大していきませんでしたか?
しかし、バブルがはじけ、景気が冷え込むと、今度は、自分が思った以上に利益が減少していきませんでしたか?
もちろん、今まで解説した事のみで、このような事態が生じたとは言いません。しかし、税務会計で作成された決算書を盲目的に信じてきたことが、このような事態を引き起こした原因の一つであったとは言えると思います。
次回は、なぜ税務会計で決算書を作るのか?その理由について、もう少し掘り下げて解説してみたいと思います。